今回ご紹介させて頂く参考書は、
1956年に金子書房から発行された『改訂新版 英文法解説』です。
まずは著者の人物像に触れてみたいと思います。
江川泰一郎先生は東京文理大学英文科卒、米国コロンビア大学大学院留学。
その後、東京学芸大学教授,日本大学教授などを歴任されています。
本書作成においては編集協力者いわく、
「江川先生はつねに紳士的で声を荒げるようなことはなかったが、
特に例文の選択では厳しく妥協を許さなかった。
学習文法の理想的な本を作ろうと全身全霊であたられ,
文字通り一字一句江川泰一郎著の本を目指していた。」とのこと。
情熱的に実直に取り組まれていた姿が想像できますね。
それでは中を覗いてみましょう。
本書は英文法の参考書であると共に、
英文解釈・英作文・英文法を三位一体とした総合的参考書となっています。
普通の文法書の体系に従って書かれてはいますが、こまごました規則の説明は必要最小限にとどめ、
英文の解釈および作文に関係の深い部分に関しては、類書に見られないほど詳しく扱っています。
例えば、日本語と比較した場合の英語的な構文の代表の一つと言われる無生物主語の構文を大きく取り上げていたり、
学生がとっつきにくいとするSVOC構文を徹底的に解明しています。
C(補語)にはどんな語句がくるかを、形容詞・名詞の場合をはじめとし、
現在分詞や過去分詞、不定詞の場合に分けて、豊富な例が挙げられています。
この本をマスターしさえすれば、あとは実際の英文をどれだけ多く読み、どれだけ多く書く練習をするか。
英文へのあらゆる疑問に答えられるだけの内容を盛り込んだつもりと筆者は述べています。
本書の特徴や活用方法をご紹介します。
1、「この本はどこから読み始めてもよい。」
本書は一応英文法書としての体裁を整えるために、名詞からはじめて各品詞を論じ、
最後は文の構成に及んでいますが、必ずしも第一章から読み始める必要はありません。
というのはどの章から読んでも、本書全体の要点を捕らえられる仕組みになっているからです。
著者の一つの提案としては、第14章の前置詞から読んでみることをおすすめしています。
例えば基本前置詞「at」を見ると、
後ページに出てくる「be surprised at~」の構文について研究するようになっており、
さらに構文を見ていくうちに、数十ページ前に戻って受け身の構文を調べるようになる、といった流れです。
2、「(→○○)を活用せよ。」
(→ )は参照の意味で、○○には品詞や構文にふられている数字が入ります。
この矢印をできるだけ多くした点は著者の苦心の一つで、
とかく断片的になりやすい読者の英文法の知識を有機的に結びつけることを目的としています。
関連事項をまとめて覚えることによって、ある事柄の知識が定着し、応用力も倍加される。
どこから読み始めてもよいと言ったのは、この矢印によってひとりでに読み継ぐように仕組まれているためです。
3、「例文とその訳文について」
英文解釈の練習用のために、この種の文法書としては比較的長い例文が載せられており、
例文にはすべて訳文がついていますが、部分訳になっているものも多くあります。
これはわかりきった部分は省略してスペースを節約し、なるべくたくさんの例を紹介したいという思いからだそうです。
4、「索引の利用」
語句の項目だけでも2000以上に及んでいるため、索引がそのまま重要な熟語や動詞の一覧表として使えます。
重要な動詞は単に意味だけでなく、その用法まで確認・習得する必要があるので復習に便利です。
番外、「解説について」
珍しい特徴として[解説]という項目が所々に設けられており、
これは学生には直接関係のない内容で、英語研究者・教育者向けに参考として書かれています。
著者が英文法の研究上もしくは教授上で感じた事柄を書き連ねており、
[解説]を書くにあたっては標準的な文法書を参考図書にしているが、
決して英米の学者の説を丸のみにせず、日本人の英語学習者の立場からみて、
英文法の問題がどこにあるかを常に考慮しながら、著者自身の考え方を述べています。
本書にはイラストや図表が1点も含まれておらず、徹底的にことばによる説明が貫かれており、
活字だけで読者に納得してもらうためには、よほど著者の思考が練られていなければなりません。
にもかかわわらず、利用者からは[解説]が本書の最大の魅力という声もあるほど大好評です。
初版1953年の発行以後、改訂により内容を洗練しつつ、
今もなお支持され続けている、この種の英文法書としては類をみないロングセラー商品です。
改訂3版は電子書籍にもなっていますので、是非お試し頂きたい1冊です。
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