現代数学社 いかに崩すか 難関大学への数学(理系版) 中村英樹著 1999

今回は、現代数学社が、月刊誌「理系への数学」1998-1999に、「いかに崩すか/難関大学への数学」として連載されたものを単行本としたものになります。

それでは、「序」から見ていくことにしましょう。

東大、京大、東工大などの難関大学(理系)志願の力が伸び悩んでいる受験生や高校生の為の指導書であると始まり、

数学は問題のバラエティに富むこと他の教科の比ではなく、仮に入試数学の千、二千の問題と解法を理解・暗記しても、その間をくぐって難関大学が無尽蔵に新作問題や、難問を出題してくるのに対処出来ない。

算法・解法の慣れとその暗記ならば、機械的に解こうという姿勢であり、コンピュータ型計算法に強くなるだけで、数学的思考力は強くはならないだろう、とあります。

昨今の難関大入試において要求される(数学的)思考力とは、次の3つを総合したものとあって

1)問題文意と数式の読解・分析力

2)的確な直観力

3)綿密な論理と表現力

が上げられています。

「数学=機械的計算」ではなかったのだ」と少しでもわかって頂けたのなら、著者にとって本懐これに勝るものはないと書かれています。

そして、本書で学ぶ高校生や受験生は、既成の堅苦しい解放などの先入観に束縛されず、のびのびと考えて頂きたいと結ばれています。

数学教育学を学ぶ人なら誰もが知っている、アラン・シェーンフェルド教授という数学者がいます。

大学の授業で彼はまず、生徒たちが入学する以前に身につけた「数学に取り組むときの習慣」をすべて捨てさせるそうです。そして、自分自身が解けない問題を「2週間考えてきなさい」と言って宿題にします。もしわからなくても、2週間毎日考えるようにと注文をつけます。

「数学は能力ではなく、向き合う態度で決まる」というのが彼の信条なのだそうです。数学を「能力がなければ解けない」「ひらめきが大事」というメンタルセットで取り組んでいたら、難しい問題にあたったとき「この問題は自分には無理だ」と諦めてしまい、そこが限界となるからです。

シェーンフェルド教授は、問題を解くためには粘り強さ、忍耐が必要だと主張しています。

実際、彼の出す宿題を2週間毎日繰り返すことにより、生徒たちの数学の能力はかなりアップするそうです。東大入試の数学でも、理系は2時間半も与えられるのに出題されるのはたったの6問。それでも全部解くには時間が足りないという点では、「忍耐力をつける」教育方針と似ていると言えそうです。

本書の「序の補遣」では、佐竹先生(東北大学教授)の「リー群の話(日本評論社、1982)から次の記述が抜粋されています。

(B君は大学生、A氏はその叔父である数学者)

B「おじさん、今日はひとつ数学の質問をしたいんですが」

A「いいとも、僕に答えられることならね、以前君が、受験数学の難問を持ってきたときには、おじさんも完全にお手上げだったからなぁ」

B「今日は、もう少し高級な質問です」

最近の入試数学は、問題の長文化や抽象化が激しく、受験生の力に比して、難しすぎるのではあるまいか、

どんな難問でもスラスラ解ける万能人間などいるはずがない、短い時間に難問や人為的トリック仕掛けの問題を急かして解かせる試験は、要領、運と不安の心境などが相当に影響し、真の実力を試すことにならないのではないか、数学の試験というものは、受験生に落ち着いて考える時間を充分与えて、一応の成果をみれるものと考えるべきだろう、現行の入試制度は出来るだけ優秀な頭脳を確保しようとしながら、逆に向上心に燃える学徒や人材をかなり淘汰しているように思えてならない、とあります。

上記のシェーンフェルド教授のそれと異なる事実に提言を加えているようです。

<目次>

実戦問題編の扉には、

Solving powerとして、十を知って百の問題を崩すとあります。

どうやら数学、難問の数学においては、「崩す」という概念が必須のようです。

解けない問題に様々な角度からアプローチし、試行錯誤して答えを探す数学は「失敗を繰り返す」ため、挑戦を恐れないメンタルセットに加えて我慢強さが必要です。

解法を色々試す過程では、せっかく長い時間をかけて解いていた式でも「これだと答えが出ない」と気づいたら途中できっぱりやめ、方向性を変えてまた最初からやり直さなければなりません。かといって、解答を見てしまったら、それこそ今まで向き合っていた時間が無駄になってしまうので、一息ついてからコツコツと別の方法でアプローチし続けます。

「すべての道はローマに通ず」という言葉がありますが、数学は、ローマに向かって道を歩いていくようなものです。ただし歩いている途中、穴があったり壁があったり工事中で進めない道があるので、そうしたら最初、あるいはひとつ前の道まで戻り、別の道を探すことになります。

 

多数が、問題が解けるまで向き合う時間も、理解するための時間もなく、数学をどんどん嫌いになるしかなかったのも当然だと思います。数学は、「正しいか間違いか」とか「速く解けるか」なんてことばかり重要視されるから、みんなどんどん拒絶するようになってしまうのです。

本当は「根気よく努力すれば結果が得られる」と実感することが、数学で身につけるべき最も大切なことのようです。

シェーンフェルド教授は「忍耐があればみんながすぐ投げ出してしまうことに何十分もかけて取り組める」とし、それがすべてにおいての成功の秘訣だと言いました。忍耐が必要なのは数学だけでなく、国語や英語もそうですし、勉強以外のほとんどのことにも当てはまります。そして、ひとつの分野で根気強く頑張る姿勢を学べば、必ず他の分野にもつながっていくはずです。

何かを熱心に取り組んでいる人は、大抵他のことをやっても頑張れます。きっと。

 

日本ではアニメや漫画、アイドルなどに熱中する人たちが大勢いて、そういう人たちを「オタク」などと呼びますが(私もオタクですが)、そうした「ひとつのことを掘り下げて しつこいくらい追求する」ことは、まさしく粘り強さかもしれません。

数学を得意とする理系には「オタク」が多いイメージがあります。それこそ「数学は才能ではなく粘り強さ」であるのを裏づけているのではないでしょうか。

本編は、代数系、解析系、幾何系、確率・統計の順に問題編と、解答をしめしながら読み進めるようになっています。

難問ですが、解を先に見て問題を考えることをやめて、最後まで取り組めたらよろしいと思います。

 

 

 

 

 

次回の、ブログもお楽しみに。

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