本日ご紹介したい参考書は、
「安藤達朗『大学への日本史』研文書院、1973年」
です。
以前ご紹介しました、研文書院の「大学への~」シリーズの日本史編です。
前回『大学への世界史の要点』では「元外交官の方の書評」をご紹介しましたが、
これがその「安易につくられた新書を100冊読むよりも」優れたと評された日本史参考書でしょう。
著者は長年、駿台で日本史の教鞭をとられた安藤達朗氏です。
目次の第1章が示す通り、この本は「歴史とは何か」という根本的な問題から入っていきます。
これはE.H.カーが1962年に著した『歴史とは何か』以来の大問題で、その苦悩は、この本の序文によく表されていると言えます。
「わたし自身が日本史を全体としてとらえなおすというもくろみが十分に果たせたかどうか、書いている過程で、わたし自身が無数の事実の中にのめりこんでしまわなかったどうか、わたしも反省しているところである」
「歴史は現在と過去の対話である」とはカーの言葉ですが、カーは無数の歴史的事実から選択叙述されるものが「歴史」であることを明かしました。
安藤氏の「事実の中にのめりこむ心配」とは、何を取捨して日本史を構成するかという、まさに歴史的事実の主観性、選択性の問題だったのです。
こうした問題意識は、受験のための日本史から更に一歩奥深い位置にあると言えましょう。
また、本書は1973年に書かれた「日本史」です。
1970年代は「歴史認識」の転換点。現在の「歴史」と見比べてみるのも面白いですね。
大学受験に留まらない『大学への日本史』。
手元に置いておきたい一冊です。
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