本日は「山川出版社 日本史 記述・論述問題の研究 1979」を紹介させていただきます。
歴史教科書でおなじみの山川出版社のテキストです。
初版は1970年に発行され、本書は1979年の補訂版となります。
「まえがき」に詳しい経緯が載っていますので、見てみましょう。
以前、当ブログで1969年の東大紛争以後の入試改革について触れましたが、
70年代にあらわれた本書は、まさに入試改革によって増やされた
論述問題への対策に特化している点で、当時の要求に鋭く応えた問題研究書でした。
とくに補訂版の本書が刊行された1979年は、のちのセンター試験の原型となる
「共通一次試験」が始まった年であり、共通一次では従来のマークシート形式が、
各大学の二次試験では、各大学の特色をもった論述問題が立ちふさがるという、
現在でも馴染みの深い入試傾向が、この頃から始まっていくのでした。
「今後の予測はむずかしいが、79年度の問題から考えてみれば、
国・公立大学の二次テストが本格的論述問題へむかう傾向を
いっそう強めることだけは確かであろう。
その意味において、本書がはたしうる役割はいぜん大きいと思われる」
慧眼とも言える「まえがき」ですね。
さて、論述問題はマークシートとは違い、書き手に自由な表現が委ねられている点で、
書き手の歴史構築が如実にあらわされます。そして、書かれた「歴史」が、
いかに当時の「模範的な歴史」と一致するかが求められる高度な問題設定と言えます。
たとえば、本書の近代史には「マニュファクチュア」という言葉が多数ありますが、
現在の日本史論述問題で、この用語が推奨されることはほとんどありません。
また、「明治維新は不徹底な近代革命であった」とする基本事項は、
現在でも評価の難しい問題で、今ではこれを前提にした出題は少なくなりつつあります。
ここには、当時の歴史学を席巻した「唯物史観」があります。
いわゆる「世界史の基本法則」とされた、
資本主義の発展→市民社会の醸成→市民革命による絶対主義の解体
という西洋の発展段階説・進歩説を日本に適用しようとした結果でした。
歴史論述の過去問は、当時の歴史理論の傾向を垣間見せてくれます。
日本史・世界史の絶版本を手に取るときは、
その解答例に至る、学問的な背景を考えてみるのも面白いですね。
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