本日は、『難関小論文 ベストセレクション 2001入試問題10講 山西博之』をご紹介させていただきます。
SEG出版といえば、当ブログでも過去に『数学闘う50題』や『数学思考回路100講』など、優れた問題集を紹介してきました。
また、前回は光田義先生がSEG在籍時に執筆された『SEG数学シリーズ11 微積分講義』を紹介させていただきました。
数学の訓練では解法のレパートリーを揃えることが目指されますが、小論文のコツとは一体何でしょうか。
「ウルゲン」で有名な著者の山西博之氏(河合塾講師)は「まえがき」で、次のように述べています。
「「小論文」にも賢く強い「全人格的なキミ」が求められている。……諸君に必要なことは、広範かつ深慮なる「教養」を身につけ、それを他人に納得させうる、文章「スタイル」を創造することだ。もっとコミュニケーションするために」
ここでは「他人に納得させうる」文章、論理の説得性を求めています。
それは同時に、独善的な文章が点数につながらないことを意味しています。
そして、この金言は近年の入試問題の傾向に関する話題と、巧みに繋がっているのです。
「2001年度の小論文入試には明らかに一つの大きなうねりがあった。……それは文化相対主義と自文化中心主義の対立に関する問題である」
目次を見れば「日本は「単一民族国家」か?」や「自己と他者」など、自明視されてきた問題に対して相対化を試みる設問が多いようです。
グローバリズムの展開の中で迎えた、21世紀の始まりに相応しいラインナップと言えるでしょう。
そして、「一つの大きなうねり」を指摘した山西氏は、さらに深刻な問題を提示していきます。
「それは世界のすべてを形づくってきた(と思い込まれている)西欧キリスト教的価値観と、常に後進的(つまり野蛮なるもの)と蔑まれてきた非キリスト教的価値観の、より具体的に述べるなら、イスラム教的価値観との激しい対立の顕在化なのである」
そう、本書が刊行された2001年、21世紀は、あの「9.11」から始まったのでした。
私たちは、サイード『オリエンタリズム(1978)』、ハンチントン『文明の衝突(1996)』など、20世紀に提示された諸問題がまさに顕在化する現場に立ち会っています。
山西氏の「まえがき」とは、そんな閉塞の中の21世紀を生き抜く、独善的でない開かれた知の可能性を求めるものだったのです。
このように小論文の参考書は、当時の世相を如実に表します。
入手は困難ですが、見かけたら揃えてみたい参考書ですね。
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