本日は、『洛陽社 くわしい日本史の新研究 1989』を紹介させていただきます。
著者の安田元久(1918-1996)氏は、日本中世史、とくに鎌倉時代の研究者として知られ、『日本荘園史概説(1957)』『平家の群像(1967)』『鎌倉執権政治(1979)』などの数々の著作があり、吉川弘文館の人物叢書も『北条義時(1961)』『源義家(1966)』『後白河上皇(1986)』を担当されています。
学習院大学の教授であった安田氏は、現皇太子(徳仁親王)の論文指導も担当されたようです。
そんな氏の晩年の活動は、同じく洛陽社から刊行された『日本史史料の解法(1987)』からも推察されるように、高校の学習参考書という、未来の後進育成に捧げられました。
本書『くわしい日本史の新研究』の刊行同年(1989)に自伝(『駘馬の道草 大正末期・昭和初期の激動と前半生の自伝』)が発行されていることも考えると、まさに自身の研究の総括としての側面もあったと言えましょう。
「高校生が日本史を勉強するさいに、あくまでも科学的学問にうらづけられた正しい歴史叙述を貫徹したところのテキストを必要とするが、その分量においても、またその内容においても、種々の制約のある検定教科書よりは、著者の個人的責任において叙述しうる学習参考書の方が、テキストとしてより有効である」
序言にはさらに「受験目的のみではない学習参考書をつくりたかった」ともあり、実際の受験にはまず出てこないであろう人物や出来事がキーワードとして叙述されています。氏の「歴史」教養に対する深い思いが感じられますね。
さて、氏は戦争から高度成長期へという激動の時代を生きた世代にあたりますが、この世代は同時に歴史研究の分野でも大きなパラダイムシフトに直面していました。
70年代から80年代にかけて、戦後歴史学の主流であったマルクス主義による階級闘争史観や革命史観の見直しが始まり、多様な歴史観への注目が集まり始めたのです。
本書のタイトルに含まれている「新研究」とは、そのような動向を踏まえたうえで学生に向けて、さらには著者自身の挑戦としてもあったのかもしれません。
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