本日は「昇龍堂出版 詳解 日本史 1965 谷口五男」を紹介させていただきます。
昇龍堂出版は大正13年(1924)創業の老舗書店で、
現在は「新Aクラス」をはじめとする中学生向けの参考書を販売していますが、
昔は大学受験をターゲットにした「詳解」シリーズも発行していました。
著者の谷口五男(1918~1986)氏は社会科の中高教諭で、
『簡約日本史』、『新しい社会の学び方』、『要約中学生の日本史』をはじめ、
社会科の教育に心血を注ぎ、死後には『谷口五男遺稿集』が刊行されるなど、
教育界において確かな地歩を占める人物でありました。
「近ごろはマスコミを通して、おびただしい日本史の情報が提供されている。
諸君もそういう知識をもちあわせていることだろう。
その正否を確かめ、整理された知識の体系にくみこむのも本書の役割の一つだ」
刊行当時1965年の情勢といえば、ベトナム戦争がまさに「泥沼化」する最中にあり、
マスコミを通した「日本史」もまた、「逆コース」と「日米安保」をキーワードに
種々様々な情報が飛び交っていたのでした。
「その正否を確かめ、整理された知識の体系にくみこむ」という言葉には、
時代を越えて、現代の我々にも突き刺さる鋭さをもち続けています。
さて、こちらは1945年の戦後日本についての記述です。
刊行は1965年ですから、当時としては直近の「現代史」となります。
「満州事変から15年、太平洋戦争から4年の長期間にわたる激烈な戦争の被害はあまりに大きかった。日本の国力は消耗し、国土は荒廃した」
「しかし日本は戦争の廃墟からしだいに立ち上がり、民主主義・平和日本の建設に邁進することになった」
ここには歴史の概説という以上の、著者の「記憶」に基づいた表現が織り込まれているようにも感じられます。まだ戦争が完全に「歴史化」していない状況と、高度経済成長の只中にいる1965年当時の著者の眼差しがここにあります。
翻って、これは現在の歴史をいかに書けるのかという問題を思い出させてくれます。
あの9.11や、3.11はどのような「歴史」に組み込まれていくのでしょうか。
絶版の日本史参考書というと、どうも最新の情報でないという意識がまずありますが、
このように当時の歴史状況とあわせて読むことで、新しい一面を見ることができます。
受験を越えた、人文系参考書の楽しみ方の一つと言えるでしょう。
この記事へのコメントはありません。