ワールドカップサッカーのJAPANの戦い方は、どうなんだろう(疑問?)=グループリーグ第3戦(対ポーランド)=を見ながら、この記事を書いています。
本日、紹介する書籍は「山川出版社 世界史の焦点 1972 青山吉信・石橋秀雄」です。
高校時代の授業や受験勉強で、多くの人が山川出版社の世界史の教科書を使ったことでしょう。創業70年になる山川出版社の累計発行部数は1000万部を超えているそうで、少子化の今も歴史書籍は、年間55万部を発行する隠れたベストセラーなんだとか…
歴史の教科書として利用されている理由は。2つあると言われています。
(1)単語量がちょうどよく、クセがない!
入試に出る単語を過不足なく集めているとは、重要な部分を太字ゴシックでしっかり書いてあり、隅っこの注釈のところにしか書かれていない、なんてことがない。
さらに、他の教科書と比べ、中立的な立場で、事実を流れに沿ってわかりやすく、素直に書いているため、文章自体にクセがないのも特徴です。
通史を理解しながら単語を拾っていくうえでは、世界史をイチから始める人に最適の教科書といえる所以です。
(2)補助教材が豊富!
補助教材、写真や図表などが多く掲載されているため、視覚的にわかりやすく、概要を俯瞰しやすい。
今回ご紹介する本書は、その始まりの頃に出版されているものになります。
カルロス・ゴーンなど著名な経営者には、歴史好きな人が多いようです。歴史に登場する過去の人間の行動や考えを知ることは、現在の人間を理解することにつながるのだろうとおもいます。今から2110年前、キケロの頃から、世界史の必要性は共有されていました。彼は「生まれる前のことを知らないことは、ずっと子供のままでいることだ」という言葉を残しています。社会をつくっているのは大人ですから、子供のままで仕事はできません。つまり、世界史を知らなければ仕事ができない、と人間は経験的に知っていたのだと思います。
時代が下って、元米国務長官のキッシンジャーも、「人間はワインと同じだ。生まれ育った土地の歴史や気候の産物だ」と言っています。人間はどの国民であっても、自分のルーツを大事にしているし、それが素晴らしいものだったらいい、と思っている。だから相手が先祖や土地のことを知ってくれているというだけで、人間は胸襟(きょうきん)を開くのです。
「グローバリゼーションは冷戦崩壊後に始まったものだ」というか、21世紀になってからだとと思い込んでいないでしょうか。だぶん、それは誤解です。世界史では、最初のグローバリゼーションは、今から約2500年前にアケメネス朝ペルシャで始まりまったと記ししていますし、2回目は13世紀にクビライ・ハンのもとであったと伝えています。ナポレオンの頃から国民国家が生まれ、グローバリゼーションが一時止まりましたが、元々、グローバリゼーションは人間の本性に根ざしたものだったのです。
かつて商人は国境など意識せず、まず儲かる相手と商売していた。それが人間の歴史を動かしたと考えたほうが良いと教えてくれます。国民国家であちこち仕切られていったのは、世界史の中でむしろ特異な時期、近代のわずか200年くらいなのです。
クビライは、モンゴル帝国第5代の皇帝です。彼は陸と海を一体化した交易システムをつくりあげました。彼の行動から、「マネーストックが循環しなかったら経済成長はできない」ということがよく見えてきます。具体的には国際通貨であった銀を使いました。クビライのもとにはユーラシア各地の王族から使節が朝貢に来る。その返礼として、通貨の塊、つまり銀塊を渡す。もらった王族はこれを商人に貸しつける。キャッシュを手に入れた商人は、中国で絹、お茶、陶磁器など、世界中が欲しがるものを大量に買いつけて商売を行う。その代金を銀塊で支払う。そして、クビライは売上税でその銀塊を吸い上げるので、まだ銀が戻ってくる。それをまたプレゼントする。こうして銀は大循環します。要するに、マネーストックを潤沢に用意して、国際貿易を活発化させたのです。交易には陸路より海で運ぶほうがはるかに効率的ですから、海賊を掃討して海路を整備します。こうして海と陸がひとつに結びついて、本当に地球規模のグローバリゼーションが実現された。これがクビライの時代なのだと歴史が教えてくれます。
今も同じようなことが起こっています。アメリカが金融緩和をしたら、そのお金を手にした多国籍企業が、日本で観光地ホテルや、民泊目的の京町家に投資したり、私達の生活に近いところまでやって来ているように報道されていることが少し理解出来るように思います。
そして、グローバルというものを恐れなくても良いこと、過去にもあったことだと知れば、私達がどのように対応すれば良いのか?ヒントが歴史の中にあるのだと思います。文化や科学技術が発達しても、おそらく人の思考、脳の構造みたいなものは、そうそう進化していないのかもしれません。
一口に「世界史」といっても、地球全体の歴史を俯瞰的に眺めたものと、諸外国の歴史を集めたものの2種類があります。本書は、世界史をダイナミックに捉えるには、十分な内容になっているようです。そこから歴史から変化の法則を学び=過去に何が起こったかを知ることで、将来の見通しがつくようになり、ロジカルな思考力から、動きを起こせる人材を目指したいものです。
最後に著者を紹介させてください。
青山吉信(あおやま よしのぶ、1926年8月20日 – )
日本の歴史学者、日本女子大学名誉教授。英国中世史が専門。妻は英文学者・青山誠子。広島県生まれ。1952年東京大学文学部西洋史学科卒業。東洋大学助教授、1961年日本女子大学助教授、教授、97年定年退任、名誉教授。
著書
『西洋近代社会』山本書店 1962
『アングロ=サクソン社会の研究』山川出版社 1974
『イギリス封建王制の成立過程』 東京大学出版会 1978
『アーサー伝説 歴史とロマンスの交錯』岩波書店 1985
『グラストンベリ修道院 歴史と伝説』山川出版社 1992
『聖遺物の世界 中世ヨーロッパの心象風景』山川出版社 1999
『ヨーロッパ歴史紀行』刀水書房 2002
石橋秀雄 (いしばしひでお1923-2002)
昭和後期-平成時代の東洋史学者。大正12年8月21日生まれ。日本女子大教授などをへて,昭和43年立大教授となる。のちフェリス女学院大教授。32年「満文老档」の共同研究・翻訳で学士院賞。平成14年1月27日死去。島根県出身。東大卒。著作に「アジア史の流れ」「清代史研究」など。
山川出版の歴史教科書・参考書は、東大教授が多いように思いますが、本書は異なるようです。
山川出版社 日本史 記述・論述問題の研究 1979
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