本日は「旺文社 数ⅡBの研究 1967 穂刈四三二」を紹介させていただきます。
現在、旺文社では「総合的研究」シリーズが刊行されていますが、
過去に「○○の研究」というシリーズが発行されていたことがありました。
本日はそのシリーズより「数ⅡBの研究」を取り上げて、紹介いたします。
例題・考え方・解答がセットに記述される王道のデザインですね。
ですが、このデザインと構成には著者の教育に対する思いが詰まっているようです。
本書の「はしがき」を見てみましょう。
「どうも数学がよくわからない。どんな勉強をしたらよいか?」
著者はメディアで活動するうちに出会った、この切実な質問に答えるために
「高校生諸君から喜ばれる参考書」を書こうと決めたと語ります。
「基本事項を理解しながら1歩1歩前進」、「反復練習」という方法的な意思は、
先ほどのページ内デザインの中にもよく示されていますね。
「むずかしい問題はできるだけ避けて、理解と応用ができるようにくふうした」
ともあり、とにかく基礎の徹底を意識した本であると言えます。
さて、本書の著者である穂刈四三二(ほかり しさんじ)(1908~2004)は、
大学の教員として教鞭をとりながら、高校生の受験相談にも親身になるなど、
熱心な教育者であったようです。
将棋・マージャン・自動車など多趣味であった様子が伺えます。
「四三二」という特徴的な名前は、両親の「四」人目の子どもであり、
生きている子では「三」人目、男子では「二」人目であることから
名付けられたそうです。親も「四三二」と名付けた子が将来数学者になるとは、
思いもしなかったことでしょう。
明治末~大正期、一部の富裕層しか進学できなかった時代に、穂刈四三二は、
貧しいながらも勉学を続け、昭和5年に文検を合格。高等教育への道を歩みます。
(文検については、過去に紹介記事がありますので、参照ください)
その後、北海道帝国大学を卒業後、同大学の教員となり、
戦後には、大学院卒の「修士」の名称を提唱・制度化するなど、
新制大学の教育にも大きな影響を与えました。
戦後は後進の育成に心血を注ぎ、
旺文社の「傾向と対策」シリーズでは、数学関連を毎年執筆。
旺文社ラジオ講座(「ラ講」)では英語のジェームズ・B・ハリスと並ぶ人気講師の
双璧と評されました。
その親身な教授像は、明治大正期生まれでイメージされる厳格な教育者
とは一線を画しているようにも思います。
そこには彼の生い立ちと、学問に対する深い思いがあったのでしょう。
「数ⅡBの研究」の「はしがき」からは、そんな穂刈氏の優しさが感じられます。
「傾向と対策」シリーズ、ラジオ講座に関する記事は、
過去に当ブログでご紹介させていただきました。
よろしければ、こちらもあわせてご覧ください。
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