本日は「啓文社出版 文部省検定 英語科受験準備の指導 1928 井上孝一」を紹介させていただきます。
戦前の英語参考書に関しては先日「英文和訳着眼点」を紹介させていただきましたが、
今回は同年代の「文検」用に著述された英語の参考書をみてみましょう。
「文検」とは聞き慣れない言葉ですが、これは「文部省教員検定試験」
(正式には「文部省師範学校中学校高等女学校教員検定試験」)のことで、
戦前の中等教育向けの免許認定のために実施された検定試験のことです。
明治17年(1884)の「中学校師範学校教員免許規程」により制度が始まって以来、
戦後、昭和24年(1949)の「教育職員免許法」まで65年にわたり行われました。
その特徴としては、本来高等師範学校の卒業者にのみ与えられていた教育免許を、
中学校卒業者を受験資格とすることで、「独学者」への門戸を開いたことにあります。
各学科ともに独自の受験世界が展開され、多くの「独学者」が自らの体験をもとに、
ハウツー本を作成しました。本書はそのうちの著名な一冊です。
「序」の続きをみてみましょう。
兵役と並行して「毎日平均五時間位二年間」とは、壮絶な努力の結果ですね。
本文は著者が指導した「H.Y.君」の答案をもとに作られており、
実際の受験に向けての注意や感想がたくさん記載されています。
手探りの模様と同時に、受験に対する熱心さが伝わってきますね。
独学におけるこの「熱心さ」が、戦前の教育を根底から支えていたのでした。
さて、「文検」が開いた門戸は、国語学者の山田孝雄、創価学会の創設者牧口常三郎、
平凡社の創業者下中弥三郎など、非凡な才能をもつ人々を多数輩出しました。
現在「文検」の実態の多くは不明に帰していますが、
教育史としても重要な位置をしめていることがよくわかりますね。
本書は当時の英語「文検」勉強法を知る貴重な資料といえるでしょう。
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