今回紹介させて頂く参考書は、
1989年に桐原書店から発行された『図解 英語基本語義辞典』です。
まずは著者の人物像に触れてみたいと思います。
政村秀實先生は大阪教育大学やワシントン大学で英語教育学を学び、
その後、島根県立大学や県立広島大学の教授を2004年まで務めました。
30年にわたり英語教育の現場に携わって痛感したのは、
「日本人は英単語の逐語訳にこだわり過ぎ、
英単語の持つ豊かなイメージをつかめていない」ということ。
そこで英語の語義を図示・図解した本を作ってみようと思いついたわけですね。
但し、その道は決して安易なものではありませんでした。
前置詞を代表とする機能語については性質上、昔から図示化が行われてきていましたが、
機能語、内容語を問わず図解する試みは前例がなく、
また、抽象的な言葉の意味の世界を具象の世界にとらえようとした場合、
曖昧さや妥協は許されず、求める図解に至るのに大変苦労したそうです。
しかし、理想の作図を探る過程で、
語義の核となる意味や背後にあるものが突然見えてきたり、
更には新たな思考を触発してくれたりと、
言葉を用いるだけでは気づくことのなかった語の性格を発見できたことが多く、
楽しく貴重な経験ができたと感想を述べています。
いつまでも謙虚に学んでいこうという、素敵なお人柄が表れていますね。
それでは中を覗いてみましょう。
図解化への道筋としては以下のパターンに区分されています。
A.分析的方法
語源の図示・図解
意味の物理的図解
B.感覚的方法
語源のイメージ図示
なぜ図示・図解によるイメージの表現が大事なのか。
それは言葉のイメージは意識して頭の中に描かれるものではなく、
人が生まれてから現在に至るまでの生活の実体験を通して作られるものだからです。
ところが外国語の場合は、言葉と実体験をすぐ結びつけることができないため、
翻訳などを用いて母国語を仲介させる方法がとられます。
しかしその際、原語と対応訳語のイメージが完全に一致することは稀で、
本来のイメージとかけ離れたものが生じてしまいがちです。
そこで、本書は言葉よりも普遍性の高いはずの図絵による補助を与えて、
より純粋なイメージを獲得することを図っています。
要所を抑えた簡潔な説明文と用例も付属しており、
英語に苦手意識を持っている方も、
取り組みやすい構成になっていると思います。
今回紹介したオリジナル本は絶版で入手が難しいのですが、
現在、アドスリー社より復刊本が発行されています。
著者自身が序文で述べているように、
本書の主旨である語義の図解と解説には手が加えられていませんので、
英語学習の一味違ったアプローチ方法として、是非手に取っていただきたい本です。
この記事へのコメントはありません。