わかりやすい漢詩 山本哲夫 学燈社 1981

今回は、学燈社から昭和49年初版、昭和56年5刷発行の「わかりやすい漢詩」、山本哲夫著の書籍を紹介させていただきます。

まず著者をご紹介します。
東京教育大学・東京文理大学文学部を卒業。
都立井草高校教諭を経て、都立紅葉川高校教諭となる。
東京都教育委員会主任指導主事・東京都立永福高等学校長・東京女子体育大学講師・桜美林大学講師などを歴任とありました。

<はじめに>
魂の旋律を奏でる漢詩のメロディアスな詩句のなかに、幸福や平和を願うヒューマンな生き方を求める、若い心を捉える何ものかがあるのだ…

そのように書き始め

本書は、上記の観点から高等学校の現行教育課程で取り扱われている漢詩を中心に集録し、漢詩のハイライト「唐詩選」を一遍にまとめたほかは、その他の作品を所収漢詩集の成立年代順に配列し、最後に代表的な日本漢詩を付記するというスタイルをとったとあります。

高校生および大学受験を志す諸君が、幸いに本書を愛読されて漢詩をますます好きになり、正しい言語の力を高め、文化や風土の理解を深め、心情を豊かにして、自己お人間形成に役立てるなど、みのり温な成果をあげられるならば、それは本書の最終目的であると同時に、筆者の限りない喜びでもある。と結ばれています。

<目次>

目次を見ますと、李白、杜甫の名前が飛び込んで来ます。

「詩仙」と名高い天才肌で自由磊落なの李白

「詩聖」の名を持つものの、少し地味な杜甫…

個人的には、まるで漱石と鴎外のようにも思えてしまいますが…

そう、杜甫が他の詩人と違ったのは、誰よりもその事に本気になり、そのために誰よりも深く心に傷を負い、誰よりも多くのものを見たということである。それは誠実さなどという綺麗な言葉で括れるものではなく、その言葉からはみ出たものが杜甫の文学となった。とありました。

「安禄山の乱」で捕虜となり幽閉された杜甫。その時に詠んだのが、代表作の「春望」です。前半では人の世が変化して移ろいゆくさまと、変わらない自然を対比させ、後半では遠く離れた妻子に思いを馳せ、心労によって急激に衰えた自身の身を嘆いています。

[原文]

国破山河在
城春草木深
感時花濺涙
恨別鳥驚心
烽火連三月
家書抵萬金
白頭掻更短
渾欲不勝簪

[書き下し文]

国破れて山河在り
城春にして草木深し
時に感じては花にも涙を濺ぎ
別れを恨んでは鳥にも心を驚かす
烽火三月に連なり
家書萬金に抵る
白頭掻けば更に短く
渾べて簪に勝えざらんと欲す

[現代語訳]

国の都である長安は、戦乱によって破壊されてしまったが、山や河などの自然は昔と変わりない。
町にも春が来て、草木は深く生い茂っている。
平和な春ならば花を見て楽しいはずだが、このような戦乱の時を思うと花を見ても涙が出てしまう。
家族との別れを悲しみ、鳥の鳴き声を聞いても心が痛む。
戦火は3ヶ月も続いていて、家族からの手紙は万金に相当するほど貴重なものに感じられる。
白髪になった頭をかけば、心労で髪が抜けるので、簪(かんざし)もさせなくなりそうだ。

「春望」は日本文学にも大きな影響を与えていて、特に松尾芭蕉は杜甫を深く尊敬していたそう。彼の代表作である「夏草や 兵どもが 夢の跡」では、「春望」の冒頭部分を引用しています。

<漢詩の魅力>

(1)賢哲の珠玉の言葉(感慨・人生訓等)に触れて、その魂に感動と心身の高揚を覚 え
えることができる。また、作者の時代とその思いに触れ、 歴史や文学の教養が豊か
になり、生活にうるおいを得ることができる。

(2)風景や生活描写の漢詩からは、描写の妙と作者の生活環境に触れることができる。

(3)これらの漢詩の中で、自分の生活や環境、更には思いが重なる時、感動は一層増大
する。

(4)詩歌に詠われる名所・旧跡を訪ねたいという欲求が出てくるとともに、歴史を踏まえた
旅の楽しさが倍加する。また、詩の現地を旅してそのイメージが脳裏に浮かべながら
吟ずることができれば、詩情表現に磨きがかかる。

<絶句>

五言絶句は起承転結があり、4行で出来ています。
五言律詩は8行です。

…簡素な、絶句により多くの魅力を感じるのは、受験勉強中に、数学に疲れたら、漢詩の一節を覚えようと、部屋の外に出て、夜空に月を探していた気分を思い出すからかもしれません。

美しい言葉で歌のように歌える、短い文字で複雑の気持ちを表す。それは(漢)詩の魅力だと思います。

そして、漢詩の独特の平仄と脚韻があります。

<平仄>

平仄とは「平」と「仄」の組み合わせであり、近代詩は最も重要な規範の一つである。漢詩では平声の脇に○、仄声の脇に●を記入し、平仄を明示することがある。例として杜甫の詩「春望」の一節を分析すると:

国破山河在
●●○○●
城春草木深
○○●●○
:となります。

<脚韻>

脚韻=押韻とは「韻を踏む」や「韻を押す」とも言われ、文中の中で類似した音を用いることで音の調子を整えるテクニックを指します。

わかりやすいのが「母音」と「子音」で合わせるということのようです。

杜甫のものは、上記の平仄と脚韻の上に立って、美しい詩が完成しっているようです。

検索してみますと、杜甫は48歳にして官職を失って長安を去り、家族を引き連れて死をもって終る放浪に出る。杜甫は理想を抱きながら、己れの拙い処世と戦乱のために、目標から引き剝がされ、じりじりと後退していった。

杜甫の文学は、この受け入れがたい不本意な運命と向かい合う中で作り出された。とありました。

儒教の教条を己の暮らしに中で、しごく真面目に通しつづけた様に、自分を律しなさいと言われているようで、ピリッと身が引き締まる気分になります。

もうひとつ、五言絶句を…

これの脚韻は、暁(Gyou)、鳥(Chou)、少(Shou)になります。

台風などの災害が多く、新型ウィルスなど、よろしくないニュースばかりがありますが、

四季を移ろいを少しでも感じられるように、今夜は、漢詩の勉強をしようかな?と少しでも思っていただけたら幸いです。

春暁を最初に覚えた頃の気分になりたいものです。

それでは次回のブログをお楽しみに。

【母音】

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