今回は「高校くわしい生物」を紹介させていただきます。
昭和30年(1955年)発行ということで、年季の入った参考書です。
著者は東北大学名誉教授の永野為武先生です。
孫柳の号で俳句もたしなまれる粋な方だったようです。
はしがきです
永野先生がお生まれになったのは明治43年(1910年)。
戦前の学制で、現在の高等学校にあたる教育機関が中学校です。
序盤から時代を感じる表現ですね。
学生の答案をみると寒心することも多く、
学生が深く生物学に関心を持たず、甘く見る傾向がある。
生物という学問の複雑な対象や現象への理解を深め、
自然科学への現象ての生物・生命を把握することに努めなければならない。
と、語りかけるように叙述されています。
本書の特徴として先生自身が挙げているのが以下の5点です。
第1 説明をていねいにしたこと
第2 最近の研究でも知っておいて頂きたい事柄はできるだけ多く取り入れたこと
第3 生命の理解に重点をおいて詳述したが、教科書にゆずれるものはできるだけ簡略したこと
第4 本文はすべて8ポイントの活字でくんであるため、他の参考書にくらべて内容はおよそ2倍近くあること
第5 出版社の良心的にな企画で、定価は教科書のそれ近くに押さえられたこと
内容については後述しますが、本書の定価は280円です。
昭和30年は大卒初任給が8700円という時代です。
書籍に近いもの物価で比較すると、当時新聞の購読料が330円だったので、
現在の価値で考えると2500円ぐらいでしょうか。
参考書としては高価な方ですが、内容は専門書並みに充実していることを考えると、良心的な価格といえるかもしれません。
知識の羅列にならないように、むしろ愉しく学んでいただくように、
長編物語として興味をおぼえるように努めてみたとはしがきでおっしゃったとおり、
子供との会話の中で次々に疑問がわいてくる大人の姿が描かれるところから始まっています。
その葉はどうして、いままで生きていたのか?
あるものが生きているとか、死んでいるといのは、なにを意味するものか?
ひとつの植物にも、考え出したらきりがないほど不思議であふれています。
永野先生ははしがきで以下の3点を自問自答する習慣を見に付けてほしいとおっしゃいました。
1.それはなにか?
2.それはどのように作用するか?
3.それは、ほかのものに、どのように影響するか?
いずれの学問でも、ただ単語や記号、手順を暗記するのではなく、
自ら疑問をもっていくことで、真に興味を持って学んでいくことが大事だと説かれています。
高校生に向けて書かれてはいるものの、生物学への姿勢や考え方について深く掘り下げていく本書は、受験参考書のレベルを超えたかなり濃厚な内容になっております。
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