東進ブックス CMの代数・幾何 水谷千治

今回紹介させて頂く参考書は、

1991年に東進ブックスから発行された『CMの代数・幾何』です。


表紙の木版画はM.C.エッシャーの「宿命」で、

2つの異なる時空間を同時に存在させようと試みたといわれている作品です。

エッシャーの作品には数学的・工学的アプローチが使われており、ファンも多く、

著者は自分の考えを語ってくれているように感じるこの作品が好きだそうです。

水谷千治先生は筑波大学大学院博士課程(数学基礎論専攻)を修了し、

その後東進ハイスクール講師としてご活躍されています。

基礎レベルから噛み砕いて整理したテキスト、正確で美しいフリーハンドの図形、

活字のような文字による板書が分かりやすいと評判です。


それでは中を覗いてみましょう。




本書は長年受験指導をしてきた中から、多くの学生の助言を得て作り上げられました。

通常の代数・幾何の参考書の役目も果たしますが、数学の知識技術ばかりでなく、

テキスト全体を通して流れる、ものの見方や考え方をも示しています。

筆者が考える、この本で「数学(代数・幾何)を勉強する」とは何をやることなのか。

それは以下の大きく3つ★のテーマに分かれています。

★『CMはパラレルワールドをかけめぐる』
「CM」とは、チャートマン(1つの分野の基礎・応用事項及びそれらの関係を人型で図式化したもの)のことで、

CMによって物事を大局的に把握することができ、問題を解く方向を見い出しやすくなります。

パラレルワールドは問題文(図)の世界とそのコピーである数式の世界があるという考え方です。

この2つの世界の関係性を意識し、首尾よく最終ステージまでたどりつけたとき、問題が解けたことになります。

上図を使って、もう少し話を掘り下げると、

数学の問題を解く過程は、問題文と数式の世界を行き来しながら、

おおよそ(Ⅰ)~(Ⅳ)のステップから成ります。

(Ⅰ)仮定と結論を明確につかむ
問題文を読むとき、仮定はなにか。結論はなにか。必ず書き出してみる

(Ⅱ)仮定の文や図をそのまま表す式をつくる
基礎事項(定義・公式・定理と注意)やCMを完全にマスターする。付録の「基本プリント」を使う。

(Ⅲ)常に結論をにらみながら、仮定の式から結論の式へ向かって計算する
計算力・応用力を例題を解き、理解し、記憶する過程で身につける。付録の「定理プリント」を使う。

(Ⅳ)自分の導き出したものが結論(答)として適するか否か吟味する
常に吟味をするくせをつける。

自分はどのステップが弱いのかチェックすることで、

弱点を克服する努力をどこに向ければよいのか指針が示されています。

★『-Startは結論から-実際に問題を解く時、次のように自分に問いかけよ』
“何を求めるのか(何を示すのか)”

私達の行動には何らかの目的があります。

目的をもってそれに向かって生きることの楽しさ・効率の良さが、

エネルギー(やる気)を生み、良い結果として喜びを生みます。

数学を勉強するときも、ある問題を解こうとする時も同様です。

著者としては、読者になぜ数学を勉強するのかと大上段になって問おうとしているわけではなく、

実際に問題を解こうとするとき、ゴールの喜びを想像し前向きに、

常に「Startは結論から」という姿勢で最初の一歩を踏み出してほしいと考えています。

★『書いて、見て、声をだせ!』

数学は記号による表現が殆どであり、またそうでないと記述しきれない分野です。

一方、私達の思考言語は日本語であるので、

数学の基礎事項や定理など記憶していたい事柄は数式の世界にあり、

私達の思考は(問題)文の世界で行われています。

これが記憶の維持を妨げる最大の要因であるとし、

このギャップをできる限り埋めるように、

CMに補足が書かれていたり、計算式の一部を図式化するテクニックが載せられています。

また他に、「記憶する」ということはどういうことか。

例えば受験を考えるとき、短時間である公式・解法を思い出し、

利用することができなくては記憶していることにはなりません。

つまり問題文を読むと同時に反応する一種の「なれ」が必要になります。

そのためには、より多くの感覚で、より多くの時間、その事に触れればよい。

勉強の際は、書いて見て声に出し、

全ての感覚器を用いて脳の刺激を繰り返すことを薦めています。


数学の問題を解くというのは何をすることなのか?というテーマを、

ここまで追求している参考書は希少かと思います。

もちろん一般的な受験対策本としての使用にもおすすめの1冊です。

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